多層構造産業配管システムの非破壊検査

Structural Integrity Assessment of Multi-Layered Piping Systems

エネルギー損失を防ぐ仕組みと非破壊検査の意義

日本の大規模な石油化学コンビナートでは、外装材・断熱材・鋼管からなる多重構造配管が全配管の約20〜40%を占め、その総延長は数百kmから数千km規模に達すると推定されています。これらの配管は当然ながら保守・点検の対象ですが、最も重要な母材(鋼管)は多層構造の最深部にあり、外層を剥してから検査します。
しかも、
一度剥離して検査した後は、再び元通りに復旧しなければならない ため、作業は極めて手間がかかります。
まるで
道路工事のためにアスファルトを掘り返し、地中の配管を点検した後、また路面を復旧するようなもので、時間・労力・コストのすべてが大きくのしかかります。
検査は一年で数百m~数キロ検査が限界でほとんどが手つかずと言えるでしょう。

1. 多層構造産業配管の構造

これらの配管の多くは、流体温度の維持、結露や凍結の防止、エネルギー効率の向上、耐候性・耐久性の向上、安全性の確保といった目的のため、特殊な三層構造で構成されています。この三層構造とは内側から以下のとおりです。
最深部:SGP配管用炭素鋼鋼管 (流体が流れる母材)
中間層:断熱材 (グラスウールなど)
表面層:亜鉛めっき鋼板 (外装カバー、ラッキングとも呼ばれる)
この構造により、外部への熱損失を大幅に抑制し、流体の温度を適切に保ちながら省エネルギー運用を実現しています。巨大なプラントにおいて、この配管ネットワークの健全性維持とエネルギー損失の最小化は、運用コスト削減・安全性向上・環境負荷低減の観点から極めて重要な課題となっています。

2. 三層構造がもたらす従来の非破壊検査の困難性

具体的には以下のとおりです。

検査手法 技術的限界・課題
目視検査 最深部のSGP鋼管は不透明な断熱材と亜鉛めっき鋼板に完全に覆われており、光が透過しないため外部から目視することは物理的に不可能。
電気検査 導電性の亜鉛めっき鋼板がシールドとなり、内部鋼管の電気的特性変化を外部から検出できない。非導電性の断熱材も電気的接続や誘導を妨げる。
超音波検査 グラスウールなどの断熱材が持つ多孔質構造により、超音波は散乱・吸収されて大幅に減衰。非接触・接触いずれの方式でもSGP鋼管まで届かない。
標準的な磁気・電磁気検査
(例:ECT)
表面層(亜鉛めっき鋼板): 強磁性体として外部磁場に強く反応し、内部の微弱な信号を覆い隠す。導電体として電磁波を反射・遮蔽。
中間層(断熱材): 磁場減衰を引き起こし、SGP鋼管への磁場到達や内部信号の検出が困難。
ECTの浸透深さ制限: 表皮効果により高周波は浅層にしか届かず、厚肉部や裏面の欠陥検出には不向き。RFECTでも三層越えの検査は非現実的。

このように断熱材と鋼板に覆われた配管は、目視・電気・超音波・ECTなど従来手法では内部劣化の検出が極めて困難なのです。

3.検査の現状

これらの非接触検査の限界から、SGP鋼管の確実な検査を行うためには、表面の亜鉛めっき鋼板と断熱材を物理的に剥がし、SGP鋼管の表面を露出させてから、目視、電気、電磁波(露出面に対して)、超音波(露出面に対して)などの手法で検査を行うのが従来の対応策でした。検査後は、また元のように資材を戻す(パッケージングする)作業が必要です。

工程 内容と課題
広範囲への敷設 数千kmにおよぶ迷路のようなパイプライン網全体に対して、個別に「剥がして検査し、再装着する」作業は非現実的。
剥離作業 断熱材やカバーの取り外しには専用工具や技術が必要で、破損・変形のリスクが高く、作業時間も膨大。
剥離材の処理と保管 剥がした資材の量が多く、保管場所の確保や断熱材の飛散防止・適切な処理が求められる。
検査作業の実施 鋼管表面の清掃や探傷、記録と解析に相当の手間と時間がかかる。
再パッケージング 元通りに復旧させることは難しく、保温性能低下や追加資材の必要性が生じる。
作業スペースとアクセス 高所・狭所での作業はさらに困難であり、足場やルートの確保にも大きな負担が伴う。
コストと時間 すべての工程に莫大なコストがかかり、操業停止期間が長期化し、経済的損失も大きい。

これらの課題を克服するために、保温材やカバーを剥がさずに内部鋼管の状態を評価できる非破壊検査技術が不可欠となるわけです。

4. 課題克服に向けた非破壊検査技術のアプローチ

このような困難な課題を克服するために開発または検討されている、磁気/電磁気を用いた二つの非破壊検査技術のアプローチを考査してみました。
これらの技術は、上記の従来の非接触検査や剥離検査の限界を解決し、保温材やカバーを剥がすことなく内部の鋼管の状態を評価することを目的としています。

5. 吸引力による静磁場解析 (Magnetic Force Analysis for Multi-Layer Assessment)

関係者のみ閲覧可

6. 積層構造対応 電磁非破壊検査 (Advanced Electromagnetic Technique for Multi-Layer Assessment)

保温材および金属カバーの上から適用可能な電磁誘導(渦電流探傷応用)技術であり、標準的なECTが抱える課題、特に強磁性体における浅い浸透深さと、保温材によるリフトオフの影響を克服することを目指しています。

この手法では、外部センサーから交流磁場を発生させ、この磁場が保温材とカバーを透過して内部の鋼管に到達し、渦電流を誘導します。厚い保温材や金属カバーを透過するためには、通常の高周波ではなく、比較的低い周波数やパルス波形を用いて磁場を深く浸透させる工夫が凝らされていると考えられます。また、センサーのコイル構成や信号処理技術を最適化することで、保温材による大きなリフトオフがある状態でも、配管の欠陥(腐食、ピンホールなど)によって生じる渦電流の乱れを高感度に検出できるようにしています。特に、検出信号の振幅(導電率に関連)と位相(透磁率に関連)を同時に解析することで、欠陥の種類や深さに関する情報を得ており、これは単一パラメータの測定では難しい積層構造下での正確な診断を可能にする、先進的な電磁気技術のアプローチです。

6. 課題克服に向けたアプローチの比較

保温材および金属カバーの上から適用可能な電磁誘導(渦電流探傷応用)技術であり、標準的なECTが抱える課題、特に強磁性体における浅い浸透深さと、保温材によるリフトオフの影響を克服することを目指しています。

この手法では、外部センサーから交流磁場を発生させ、この磁場が保温材とカバーを透過して内部の鋼管に到達し、渦電流を誘導します。厚い保温材や金属カバーを透過するためには、通常の高周波ではなく、比較的低い周波数やパルス波形を用いて磁場を深く浸透させる工夫が凝らされていると考えられます。また、センサーのコイル構成や信号処理技術を最適化することで、保温材による大きなリフトオフがある状態でも、配管の欠陥(腐食、ピンホールなど)によって生じる渦電流の乱れを高感度に検出できるようにしています。特に、検出信号の振幅(導電率に関連)と位相(透磁率に関連)を同時に解析することで、欠陥の種類や深さに関する情報を得ており、これは単一パラメータの測定では難しい積層構造下での正確な診断を可能にする、先進的な電磁気技術のアプローチです。

課題 吸引力による静磁場解析(Magnetic Force Analysis for Multi-Layer Assessment) 積層構造対応 電磁非破壊検査(Advanced Electromagnetic Technique for Multi-Layer Assessment)
表面層(強磁性体)の影響 関係者のみ閲覧可 信号解析(振幅・位相)や周波数/波形選択で影響を低減する可能性
中間層(断熱材)の影響 関係者のみ閲覧可 低周波やパルス波形、高感度センサーで透過性を確保
ECTの浸透深さ制限 関係者のみ閲覧可 低周波やパルス波形、信号解析で深部情報を得る
主な解析対象 関係者のみ閲覧可 検出信号の振幅、位相
6. 結論

保温材およびカバー下の配管検査における従来の非破壊検査手法の限界に対し、吸引力による静磁場解析(Magnetic Force Analysis for Multi-Layer Assessment)および積層構造対応 電磁非破壊検査(Advanced Electromagnetic Technique for Multi-Layer Assessment)は、課題克服のための有効な手段となり得ます。これらの技術は、表面層や中間層の影響を低減または積極的に利用し、内部鋼管の劣化情報を外部から取得することを目指しています。

関係者へのヒアリング結果によれば、現状では年間あたり約1km程度の検査が可能に過ぎず、大部分の配管が未検査のまま放置されているのが実情です。
このような背景において、保温材および外部カバーに覆われた配管の非破壊検査に関して、従来手法では対象領域へのアクセスや精度面において多くの制約が存在します。

これらの課題に対し、吸引力による静磁場解析(Magnetic Force Analysis for Multi-Layer Assessment)および積層構造対応 電磁非破壊検査(Advanced Electromagnetic Technique for Multi-Layer Assessment)は、構造的・物理的障壁の克服を目指す有効なアプローチである。両技術は、配管を構成する表面層(強磁性体)や中間層(断熱材)の影響を最小化あるいは逆に解析要素として取り込みつつ、内部鋼材の劣化兆候を外部から検出・評価することを可能にします。

特に、静磁場を用いた解析手法は
関係者のみ閲覧可

これらの新技術は、配管表層の物理的剥離を伴う従来検査の困難さを回避しつつ、効率的かつ経済的なインフラ健全性評価を実現する手段として重要な意義を持つ。今後の技術成熟および現場実証の進展により、CUI(Corrosion Under Insulation)対策を含む配管維持管理の中核的技術としての確立が期待される。